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「なぜ危機に気づけなかったのか 組織を救うリーダーの問題発見力」 (マイケル・A・ロベルト著)

今日、紹介する書籍はマイケル・A・ロベルトの「 なぜ危機に気づけなかったのか ― 組織を救うリーダーの問題発見力 」です。 マイケル・A・ロベルトの書籍としては、「 決断の本質 プロセス志向の意思決定マネジメント (ウォートン経営戦略シリーズ)  」の方が有名かも知れませんが、今日紹介する書籍も負けず劣らずよい本です。 原著の題名は「 Know What You Don't Know: How Great Leaders Prevent Problems Before They Happen 」です。直訳すると「知らないことを知る: いかにして偉大なリーダーは問題が起こる前にそれを防ぐのか」になると思います。直訳でもそんなに悪い題名のような気もしませんし、なぜ原著の題名とそこまで変える必要があるのか、私には正直よく分かりません。表紙の画像も氷山の写っている英語版の方が好きです(汗)。 本書では、題名どおり危機や問題が実際に起こる前にいかにして防ぐのかについて、詳細に述べられています。特にリーダーの立場にたつ人が、どのように振舞えば、危機の兆候をうまく捕らえやすくなるかについて、人間の心理学的見地も踏まえ、丁寧に解説されています。 本書では、組織の上に行けば行くほど、情報の「フィルタリング」が強まり現場の声が聞こえなくなり、危機の兆候を見逃す可能性があると指摘しています。情報がリーダーのもとに届かないのは、リーダーだけの問題だけはなく、周囲にいる部下が良かれと思って、情報にフィルタリングをかけてリーダーに伝えてしまうということも原因であると指摘しています。本書ではそのようなフィルタリングをする役割を演じてしまっている人を「ゲートキーパー」と呼んでいます。このようなフィルタリングを防ぐために常に最前線で働いている現場の人や、自社の製品を使っている顧客の意見・苦情を「自分の耳で聞く」ことが大事だと述べられています。 危機を見つけるのが難しい理由は、その兆候が見過ごされやすく、関連性が全く見えないことにあります。そのため、筆者らはリーダーは「人類学者になり」何が起きているかを上手に観察し、「パターンを探し」、一見つながりが見えない「点を結びつける」能力が必要だと述べています。特に「点を結びつける」の部分では、9・11のアメリカ同時多

影響力のマネジメント リーダーのための「実行の科学」 (ジェフリー・フェファー著)

今日紹介する本は、ジェフリー・フェファーの「 影響力のマネジメント (リーダーのための「実行の科学」) 」です。この本は、私にとってジェフリー・フェファーの著作の中で、最も実際の仕事の中で役に立った本です。 原著の題名は「 Managing With Power: Politics and Influence in Organizations 」になります。直訳すると「パワーを用いたマネジメント: 組織における政治と影響力」とでもなるでしょうか。 本書は題名どおり、組織内での「パワー」「影響力」ということに徹底的に注力して書かれています。 例えば、「パワー」を使っていかに敵対勢力を一掃するか、どうやって自分を強い立場に置いて「パワー」を維持するか、そして、どういう行動により「パワー」を失うのかなどについて、実際に歴史上起きた例を交えながら、事細かに述べられています。アメリカ大統領のリンドン・ジョンソン、ニューヨークの公共事業担当者ロバート・モーゼス、Appleのスティーブ・ジョブズ、日産の川又(私は本書を読むまで知りませんでした)まで、幅広い事例が上げられていますが、この事例の幅広さからも本書がいかに本気で書かれているか伝わると思います。 本書の中のほんの一部ですが、「パワーの源泉としての個人特性」の部分で述べられているコンフリクトの部分が、本書の雰囲気をよく表していると思いますので、引用します。 「うまくやっていくためには、仲良くやっていかなければ」という格言は、子どものころからしばしば聞かされるものだ。 ... コンフリクトから逃げてばかりだと、自分の思いを通せることはまずないだろう。 ... 一緒に仕事をしている仲間内ではたしかに好かれる要素だろうが、パーソナリティが穏やかだからと好かれている者が必ずしも最も有力だとか、物事を遂行できるなどということは実際にはないと考えてよい。 (186ページ) フェファーはこの後の文章で、多くの人々はコンフリクトを嫌うので、好戦的で厄介な存在になることもパワーを獲得する上で重要な要素だとも述べています。 上記のような内容を読んで、げんなりして読むのをためらう方もいるかも知れません。正直、私も本書を読んで「こんなことばかりだから、組織には居たくない。」と思ってしまいました。しかし、フ

「アート・オブ・プロジェクトマネジメント ―マイクロソフトで培われた実践手法―」(スコット・バークン著)

今日紹介する本は「 アート・オブ・プロジェクトマネジメント ―マイクロソフトで培われた実践手法― 」です。 本書は、著者スコット・バークン(Scott Berkun)が、マイクロソフトに長年プロジェクトマネージャーとして勤務し経験してきたことを、一般化してまとめたものになります。 著者の実体験をふんだんに取り入れて書かれていますので、実感がこもっているところがよいろ思います。 クリティカル分析の仕方やガントチャートの組み方といったプロジェクトマネジメントの技術的手法そのものではなく、プロジェクトマネージャーの心構え、コミュニケーションのとり方、よいアイデアの生み出し方といった、より実践的なスキルについて書かれた本になります。 原著の題名は日本語のカタカナ英訳と同一で「 The Art Of Project Management (Theory in Practice (O'Reilly)) 」です。邦訳の題名には著者の経歴を踏まえて「Microsoft」を入れたのだと思います。  原著の方は新版が発行されていました。ぜひ機会があれば読んでみたいと思います。 「 Making Things Happen: Mastering Project Management (Theory in Practice (O'Reilly)) 」   本書は、優先順位付けの大切さ、ものごとを成し遂げるためには「ノー」といえるようにならなければならない、社内政治から逃げてはいけない、など、私に初めてプロジェクトマネジメントとはどういうものかを教えてくれた思い出深い書籍です。 特に当時の私は社内政治という言葉を毛嫌いしていました。本書の著者の言葉をかりていうならば、 政治力(名詞): 邪悪で、弱虫で、自己中心的な人々が利用しようとするもの (399ページ) と認識していました。この章で著者(Berkun)の上司がある行動をとったことにより、著者は「政治」に対する認識を大きく改めます(上司がどんな行動をとったかは是非、本書を読んでみてください)。私は、この部分を読んで「政治」に対する自身の認識の未熟さと傲慢さを痛感し、社内政治もしなければ、物事は成し遂げられないと強く思うようになりました。 著者は、本書で様々な視点から、どのように

「ソフトウェアの世界でキャリアを築く Making it Big in Software」(サム・ライトストーン著)

今日紹介する本は「 ソフトウェアの世界でキャリアを築く Making it Big in Software  」です。ソフトウェア業界に特に重点をおいて、いかにして自分の望むキャリアを築いていくかについて述べられています。   原著は「 Making it Big in Software: Get the Job. Work the Org. Become Great. 」です。   原著の題名を直訳すると「ソフトウェア業界で成功する: 仕事を得る。組織で働く。偉大になる。」でしょうか。 本書では、ソフトウェア業界の錚々たる著名人のインタビューが採録されています。 所属は、本書の執筆時点のものなので変わっている方もいるかも知れませんが、彼らの功績を示すには十分でしょう。 Jon Bentley (『珠玉のプログラミング著者』) Marissa Mayer (Google副社長、Google初期メンバーの20人目、元Yahoo CEO) Bjarne Stroustrup (C++の考案者 ) Richard Stallman (フリーソフトウェア運動の創始者) Ray Tomlinson (電子メールシステムの発明者) Peter Norvig (2002~2005年の間のGoogleの検索サービスの総責任者) John Schwarz (IBM, Symantec社の要職を歴任、 Business Objects社 CEO) Linus Torvalds (Linuxの生みの親) Mark Russinovich (Windowsのグル、Microsoftテクニカルフェロー) David Vaskevitch (Microsoft社 CTO) Grady Booch (UMLを生み出した一人) Tom Malloy (Adobe社チーフソフトウェアアーキテクト) James Gosling (Javaの考案者) Robert Kahn (インターネットの共同発明者) Steeve Wozniak (Appleコンピューターの発明者・Apple社の共同創設者) Marc Benioff (Salesfoce.com社CEO) Diane Greene (VMWare社の共同創業者、元CEO) これだけの方

「イノベーション・オブ・ライフ - ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ」(クレイトン・M・クリステンセン、ジェームズ・アルワース、カレン・ディロン著)

今回紹介するのは、「 イノベーションのジレンマ 」で有名なクレイトン・M・クリステンセンの本です。クリステンセンの「イノベーションの~」シリーズは以下、山のように邦訳されています。 「 イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき 」 「 イノベーションへの解 利益ある成長に向けて 」 「 イノベーションの最終解 」 「 イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル 」 今回紹介する「 イノベーション・オブ・ライフ - ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ 」は、クリステンセンの研究業績そのもとというより、彼の経営研究「理論」として人生に当てはめて講義したような本になっています。(理論を強調したのにはちゃんと理由があります。本書を是非読んで下さい!)。 また例のごとく原著の紹介ですが、原著の題名は「How Will You Measure Your Life?」で、題名のどこにも「イノベーション」という単語は入っていません。「クリステンセン=イノベーション」で売る戦略なのでしょう。出版社も商売が上手いですね。 原著の題名を直訳すると「どうやって人生を計る?」になると思います。 この本は、特に何とはなしに立ち寄った古本屋で偶然見つけました。その時点でクリステンセンの「イノベーションの~」シリーズがかなりの冊数購入しており、正直そこまで特期待はしていませんでした。しかしこの本は読み進むうちに、色々身につまされる話が書かれていて、自分自身の人生への今まで、現在、将来への見方が大きく変わりました。 本書は、経営や事業戦略の失敗事例を出し、クリステンセンの経営学の知見からその失敗を説明し、そして人生に当てはめて指針を示す、という流れで書かれている部分が多いです。例えば、イリジウム・サテライト・ネットワークの失敗例から、一般的な企業投資の理論「よい資本と悪い資本の理論」を説明し、そこから家族や友人の大切さを説くという流れです。特に「よい資本と悪い資本の理論」の部分は、私がハッとさせられたので引用します。 人生でも気をつけていないと、簡単に悪い金の手法に陥ってしまう。自分が打ち込んでいて楽しいと感じる仕事であれば、困難なほどやる気が出るという人は多い。 プレッシャー下でも立派な仕事ができることを証明したい

「ハーバード流 ボス養成講座 優れたリーダーの3要素」(リンダ・A・ヒル、ケント・ラインバック著)

今回、紹介する本は「 ハーバード流 ボス養成講座 優れたリーダーの3要素 」です。 私は正直「ハーバード流○○」「マッキンゼー流××」「Google流△△」などのようにいわゆる、一流と呼ばれる組織の名前を追加して、「ハロー効果(ある対象を評価をする時に、それが持つ顕著な特徴に引きずられて、他の特徴についての評価が歪められる現象のこと[Wikipediaより引用])」により買わせようとするマーケティング手法に対しては苦々しく思っています。本書もマーケティング戦略のためか、邦訳版の題名と原著の題名には大分乖離があります。原著の題名はシンプルに「Being the Boss: The 3 Imperatives for Becoming a Great Leader」、直訳すると「ボス(上司)になる : 偉大なリーダーになるための3つの必須事項」になるかと思います。 題名で売りたいだけの本で中身は薄っぺらいのかなと思い、本書を購入する気は余りなかったのですが、他の方の書評を見て購入に踏み切りました。内容は非常に実践的で濃いものですので、お勧めです!逆に題名に「ハーバード流」とか安っぽくなるのでつけない方がよい気がします。 翻訳そのものに関しては、ビジネス書の翻訳でよく見かける村井章子さんの訳だけあって、非常に読みやすいです。本書で最も読みづらかったのは、各章の導入部分で物語風に書かれている部分の登場人物の名前です。私は英米人の名前には馴染みが薄く、誰が何の役職なのかすぐに理解できなくなってしまいました。例えばブレンダ・ボールドウィン、レイ・サンチェス、ジャック・キャビットなどが登場します。日本人向けであれば、鈴木、山田、田中とかに置き換えて読むと理解が早まるのではないかと思いました。 さて肝心の内容です。本書は会社の中核を担う中間層のリーダーたち向けの本になります。彼らに求められる3つの要素(3 imperatives)として本書は 自分をマネジメントする 人脈をマネジメントする チームをマネジメントする を挙げています。単に並べただけですと抽象的ですが、各要素ごとに分量を割いて深く掘り下げて書かれています。 「2. 人脈をマネジメントする」の部分では「上司」「組織」「影響力」、「3. チームをマネジメントする」の部分では「将来像」

[エッセンシャル版] マイケル・ポーターの競争戦略 (ジョアン・マグレッタ著)

マイケル・ポーターは「Competitive Advantage (競争優位)」「Five Forces」で有名な経営戦略研究の第一人者です。私も以前から興味があり名著「競争の戦略」を読んでみようと思っていたのですが、書店に行って、あまりの本の分量の多さ (+価格の高さ)に購入を諦めていました。 もっと手軽に読めそうな本はということで、以下のポーターの論文集のような「競争戦略論I」「競争戦略論II」本は購入したのですが、いまいち(私のレベルの)実務では実感に乏しく、あまり深く読んで理解することができませんでした。 そんな中でようやく見つけたのが本書「 [エッセンシャル版] マイケル・ポーターの競争戦略 」になります。結論から言いますと、本書が私にとっては最も理解しやすかったです。 本書は、ポーターの経営・競争戦略の理論の本質を、ポーターと長年仕事を共にしてきたジョアン・マグレッタが要約し解説する形で書かれています。 原著は「 Understanding Michael Porter: The Essential Guide to Competition and Strategy 」になります。 今回の邦訳の題名は意訳感はないので改めて訳すほどではないですが、私の拙い英語で直訳すると「マイケル・ポーターを理解する: 競争と戦略の必須ガイド」になるでしょうか。余談ですが「Essential Guide」は「エッセンシャルガイド」のカタカナで訳 してしまってもよいかも知れません、日本語でぴったり来る言葉が見つかりませんでした。そもそも「Guide」は「ガイド」と訳すしかないような気がします。 さて本の内容です。正直あまり期待していなかったのですが、ポーターの競争戦略の要点がしっかりまとめられており、「なるほど」「面白い」と感じながら読み進めることができました。また、ポーターの理論へのよくある批判に対する反論や解説も記されており、ポーターの理論を俯瞰的に理解することができました。 私が、本書でまず気づかされたのは「競争に勝つ」という言葉に対する意味のとり方です。我々は「競争に勝つ」というとどうしても「最高を目指す」「一番になる」「相手を打ち負かす」というような行動をとりがちですが、ポーターは「最高を目指すべきではない」と言